会社が倒産しても退職金はもらえる?法律や制度を解説

会社が倒産…そんな状況に追い込まれると、従業員は真っ先に「退職金は?」「給料は?」と不安になることでしょう。長年働いてきた会社が突然なくなるなんて、本当に大きなショックだと思います。でも、ご安心ください。会社が倒産したとしても、あなたがもらえるはずだった退職金や未払い賃金が、すべて消えてしまうわけではありません。国や法律には、従業員を守るための大切な制度が用意されています。

この記事では、会社の倒産に直面したときに、あなたが退職金や生活資金を少しでも多く受け取るための方法を解説します。

まず確認すること:会社の状況とあなたの退職金制度

突然の事態に焦るお気持ちはよくわかりますが、まずは冷静に、いまあなたの会社がどのような状態なのか、そしてあなたの退職金がどのような制度で積み立てられていたのかを確認することが、最初の一歩となります。

会社の「倒産」にも種類があることを知っておきましょう

「倒産」と一口に言っても、法的な手続きにはいくつか種類があります。
一般的に耳にするのは、以下の手続きかもしれません。

・破産手続き・特別清算
会社が事業を続けられなくなり、財産を清算して債権者に分配する手続きです。
会社の事業は完全に停止されます。
・民事再生手続き・会社更生手続き
会社を立て直すことを目指す手続きです。
事業を継続しながら、債務の整理や再建計画を進めていくものです。

どちらの手続きが進んでいるかによって、あなたが取るべき行動は変わります。
会社からの通知や、裁判所からの連絡などを注意深く確認しましょう。

あなたの会社は「中退共」に加入していますか?

あなたの会社が「中小企業退職金共済制度(通称:中退共)」に加入していた場合、会社が倒産しても退職金は満額、確実に受け取れる可能性が高いでしょう。

なぜ中退共なら安心できるのでしょうか。
それは、あなたの会社が毎月支払っている掛金が、会社の口座に残るのではなく、国が設立した「独立行政法人勤労者退職金共済機構」という外部機関に直接預けられているからです。つまり、退職金のもとになるお金が会社の資産とは完全に切り離されて管理されているため、会社が倒産して借金が多くなったとしても、あなたの退職金が差し押さえられる心配はありません。

中退共への加入状況を確認する方法

・総務部や人事部に直接問い合わせる
最も確実な方法です。「中退共制度に加入していますか?」と尋ねてみてください。
・給与明細を確認する
給与から中退共の掛金が天引きされていることがあります。「中退共」や「退職金共済」といった項目がないか、確認してみましょう。
・就業規則や労働条件通知書を見る
退職金に関する規定に「中小企業退職金共済制度による」といった記載がある場合があります。
・労働組合に相談する
労働組合は会社の退職金制度を詳しく把握していることが多いため、聞いてみるのも良いでしょう。
・独立行政法人勤労者退職金共済機構に問い合わせる
どうしても確認できない場合は、直接問い合わせてみるのも一つの手です。ただし、個人情報保護のため本人確認が必要になります。

もし中退共への加入が確認できたら、受け取り手続きは会社が倒産していても通常通り進められます。

退職金はもらえるのか?会社の支払い能力と、その原則

会社が倒産しても、退職金を受け取る権利は消滅しません。これは、退職金があなたが長年会社に貢献した「賃金の一部」として法律で位置づけられているためです。以下、詳しく解説していきます。

倒産でも退職金を受け取る権利は消滅しない

会社が破産手続きなどに入ると、あなたの退職金は「優先的破産債権」として扱われます。これは、会社が抱えるたくさんの借金の中でも、従業員の給料や退職金は優先的に支払われる特別な権利を持つ、という意味です。

ただし、実際に退職金を満額受け取れるかどうかは、会社の財政状況や残っている資産によって大きく左右されます。会社に十分な資産があれば全額支払われる可能性もありますが、資産がほとんど残っていない場合は、残念ながら減額されたり、支払いが難しくなったりすることも考えられます。

一般的な退職金の相場とあなたがもらえる金額の計算方法

退職金の金額は、あなたの勤続年数、退職時の基本給、そして会社の退職金制度によって大きく変わります。

一般的な退職金の計算方法は「基本給 × 勤続年数 × 支給率」という方法が用いられることが多いです。
例えば、基本給が30万円で勤続年数が10年、支給率が1.5の場合
450万円(30万円 × 10年 × 1.5)が計算上の退職金額となります。

倒産による退職は「会社都合退職」に該当しますので、本来であれば自己都合退職よりも高い支給率が適用されるのが一般的です。しかし、会社の財産状況によって実際の支給額は変わる可能性があるため、計算上の金額と実際に受け取れる金額には差が生じる場合があります。

【最重要】退職金が支払われない時の切り札「未払賃金立替払制度」

会社が倒産して退職金が支払われない、そんな絶望的な状況に直面しても、諦める必要はありません。国には「未払賃金立替払制度」という、あなたの生活を守る大切な制度があるからです。

この制度は、独立行政法人労働者健康安全機構が運営し、倒産などで企業が賃金や退職金を支払えなくなった際、労働者に代わって国が一定額を立て替えて支払ってくれます。

未払賃金立替払制度を利用できる条件と受給額

制度を利用するためには、いくつかの条件があります。

利用できる会社の条件

・労災保険に加入している事業所であること
・「倒産」していること

ここでいう倒産とは、主に以下のいずれかの状態を指します。

1.法律上の倒産
破産、特別清算、民事再生、会社更生などの法的手続きが裁判所で開始されている状態です。
2.事実上の倒産
会社が事業活動を停止し、再開の見込みがなく、賃金支払い能力もないと労働基準監督署長が認定した状態を指します。例えば、経営者が行方不明になったり、債務超過で営業が完全に止まったりしているケースが該当します。

利用できる労働者側の条件

倒産について裁判所への申立て等が行われた日(事実上の倒産の場合は労働基準監督署への申請日)の6ヶ月前から2年後までの間に退職していること。つまり、倒産の前後一定期間内に退職した従業員が対象です。
未払い賃金等の合計額が2万円以上あること。

対象となる賃金等

以下の未払い分が対象となります。

・定期賃金
退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来したもの
・退職手当
退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来したもの
・賞与・ボーナス
倒産について裁判所に申し立てられた日等の6ヶ月前から2年後までの間に支払期日が到来したもの

受給額の上限

未払い賃金等の8割が支払われますが、年齢に応じて上限額が設定されています。

・30歳未満: 最大支給額 110万円
・30歳以上45歳未満: 最大支給額 220万円
・45歳以上: 最大支給額 370万円

例えば、40歳の方で未払い退職金が300万円ある場合、本来は240万円(300万円 × 0.8)が立替払いの対象ですが、年齢の上限が220万円ですので、実際に受け取れるのは220万円となります。

立替払制度の申請手続きの流れと必要書類

申請手続きでは、いくつかの書類の準備と、正確な手順を踏むことが必要です。

手続きの流れ

1.倒産状況の確認

・法律上の倒産の場合
裁判所で発行される「倒産等確認通知書」を、破産管財人などの倒産手続きの管理者に依頼して取得します。
・事実上の倒産の場合
労働基準監督署に「事実上の倒産の認定申請」を行い、認定を受けます。

2.立替払い申請に必要な書類の準備

立替払い申請に必要な書類

  • 立替払い請求書(機構のホームページからダウンロードまたは窓口で入手)
  • 退職所得の源泉徴収票、または退職証明書
  • 賃金台帳や給与明細書、退職金規程など、未払い賃金等の額を証明できる書類
  • 労働契約書
  • 本人確認書類(運転免許証や健康保険証など)のコピー
  • 預金通帳(振込先口座がわかるもの)
  • (会社の状況によっては)裁判所の決定書や労働基準監督署長の認定通知書
書類準備のポイント

重要なのは、未払い賃金等の額を正確に証明することです。会社が倒産状態だと、給与明細書などが手に入らないこともあります。可能な限り、銀行の通帳記録や、同僚の証言なども証拠として活用しましょう。退職金については、会社の就業規則や退職金規程に基づいて計算した額を示す必要があります。

書類の準備で困った場合は、労働基準監督署や労働者健康安全機構の相談窓口で、代替手段について相談してみてください。

3.申請から受給まで

申請書類を提出すると、通常1〜2ヶ月程度の審査期間を経て、認定された額があなたの指定口座に振り込まれます。
この制度には時効がありますのでご注意ください。倒産について裁判所への申立てが行われた日の翌日から2年以内、または事実上の倒産が労働基準監督署長に認定された日の翌日から2年以内に申請しなければ、権利が消滅してしまいます。

失業保険で生活を守る「会社都合退職」のメリット

会社の倒産による退職は、労働者にとって突然の出来事で、生活への影響も深刻です。しかし、雇用保険制度では、このような状況にある労働者を手厚く保護するための仕組みが整っています。倒産による退職は基本的に「会社都合退職」として扱われ、自己都合退職と比べて失業保険(基本手当)をより早く、より長期間にわたって受け取れるメリットがあります。

「会社都合退職」と認められるための条件と必要書類

倒産による会社都合退職が適用される条件は、比較的明確です。

・法的な倒産手続きが開始された場合
破産手続開始決定、民事再生手続開始決定、会社更生手続開始決定などが該当します。裁判所から正式な決定書が発行されます。
・法的手続きを経ずに会社が事業を停止した場合
事業を停止し、再開の見込みがない状態で解雇された場合も会社都合退職として扱われます。この場合は、会社からの解雇通知書や事業停止を証明する書類が必要になることがあります。

失業保険の申請に必要な書類

離職票
会社が発行する、退職理由が記載された最も重要な書類です。
倒産の場合、「会社都合」に該当するコード(例:「1A(解雇)」「2A(倒産)」など)が記載されます。
会社が発行してくれない場合は、ハローワークで代替手続きについて相談しましょう。
・法的な倒産手続きに関する書類
裁判所から発行される「破産手続開始決定書」などの写しが有効です。官報に掲載された情報を印刷したものでも構いません。
・事実上の廃業を証明する書類
解雇通知書、給与明細書(給与支払停止の時期を示すもの)、会社からの連絡文書、新聞記事、同僚の証言など。

事実上の廃業を証明する書類

  • 雇用保険被保険者証
    雇用保険に加入していたことを証明します。
    紛失した場合はハローワークで再発行できます。
  • 本人確認書類
    運転免許証やマイナンバーカードなど。
  • 印鑑
  • 写真
    縦3cm×横2.5cm
  • 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード

失業保険の給付日数と金額が増える具体的な条件

会社都合退職は、自己都合退職と比べて失業保険の給付条件が大幅に改善されます。

大きなメリット

・給付制限期間がない
自己都合退職では2〜3ヶ月の給付制限期間がありますが、会社都合退職ではこの期間がありません。ハローワークでの手続きが完了し、7日間の待機期間を経た後、すぐに給付が開始されます。突然収入が途絶えた状況では、この早期給付が大きな助けとなります。
・給付日数が長い
会社都合退職の方が、より長期間の給付を受けられます。

1年未満

・自己都合退職: なし
・会社都合退職: 90日(年齢問わず)

1年以上5年未満

・自己都合退職: 90日
・会社都合退職:
 30歳未満: 90日
 30歳以上35歳未満: 120日
 45歳以上60歳未満: 180日

10年以上20年未満

・自己都合退職: 120日
・会社都合退職
 30歳以上35歳未満: 240日
 45歳以上60歳未満: 270日

20年以上

・自己都合退職: 150日
・会社都合退職:
 45歳以上60歳未満: 330日
 特定の条件で360日

※上記は一般的な例であり、年齢や被保険者期間、その他条件によって日数は異なります。特に、倒産により離職した45歳以上65歳未満の方は「就職困難者」として扱われ、さらに手厚い給付を受けられる場合があります(被保険者期間1年以上で300日、1年未満でも150日など)。

給付金額

退職前6ヶ月間の平均賃金の約50〜80%が支給されます。賃金が低い人ほど給付率が高くなる仕組みです。例えば、月収20万円程度の人なら、日額約4,000円から5,000円程度の失業保険が受け取れるでしょう。

倒産後すぐやるべき手続きと生活資金の確保

会社の倒産という突然の状況に動揺し、何から手をつけていいかわからなくなるのは当然のことです。でも、生活を立て直すためには迅速な対応が求められます。ここでは、あなたが倒産後にすぐにやるべき手続きと、生活資金を確保するための方法をまとめてみました。

未払い給与の請求方法と期限

会社が倒産した場合、最後の給与や退職金が支払われていないケースがほとんどです。これらの未払い賃金は、いくつかの方法で回収を試みることができます。

1. 未払賃金立替払制度の活用

最も重要なのは、先ほど詳しく説明した未払賃金立替払制度の活用です。この制度は、倒産した企業の従業員に対し、国が未払い賃金の一部を立て替えて支払ってくれます。

・対象
退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来した定期賃金と退職手当など。
・期限
退職日の翌日から2年以内です。この期限を過ぎると、せっかくの権利を失うため、できるだけ早く手続きを進めることが大切です。

2. 会社に残っている資産からの回収

会社が破産手続きに入っている場合は、裁判所から選任された「破産管財人」(会社の財産を整理・分配する弁護士)に対して債権の届出を行います。ただし、この場合、他の債権者と平等に扱われるため、実際に回収できる金額は限られることが多いのが現実です。

失業保険の申請手続きと受給までの期間

失業保険(雇用保険の基本手当)の申請は、生活資金を確保するために最も重要な手続きの一つです。

申請の流れ

1.離職票の入手
会社が発行しますが、倒産の混乱で遅れることもあります。届かない場合は、ハローワークで代替手続きについて相談してください。
2.ハローワークで求職の申し込み
離職票、本人確認書類、証明写真、印鑑、本人名義の預金通帳を持参して手続きを行います。
3.給付開始
会社都合での離職の場合、給付制限期間がないため、7日間の待期期間が経過すれば、すぐに基本手当の支給が開始されます。

給付期間と金額

給付期間は、離職時の年齢と雇用保険の被保険者期間によって決まります。会社都合の場合は自己都合よりも長期間の給付を受けられるため、じっくりと次の就職先を探すことができるでしょう。
金額は、離職前6ヶ月の平均賃金の約50〜80%程度です。ただし、年齢に応じて上限額が設定されています。

受給中の注意点

失業保険の受給中は、原則として4週間に1回の失業認定を受け、求職活動の状況を報告する必要があります。この手続きを怠ると、給付が停止されてしまいます。倒産による離職の場合、一定期間は求職活動実績が緩和されることもあるので、ハローワークの担当者によく相談しておきましょう。

健康保険と年金の切り替え手続き

会社が倒産すると、それまで加入していた健康保険(協会けんぽなど)や厚生年金から自動的に脱退することになります。これらの社会保険の空白期間を作らないよう、速やかに切り替え手続きを行うことが大切です。

健康保険の選択肢

主に3つの選択肢があります。

1. 健康保険の任意継続

退職前の健康保険を個人で継続する制度

・メリット: 扶養家族がいる場合、保険料が抑えられることがある
・デメリット: 保険料は全額自己負担
・備考: 退職日の翌日から20日以内に手続きが必要

2.国民健康保険への加入

住所地の市区町村役場で手続き

・メリット: 特に記載なし
・デメリット: 保険料が前年の所得に基づき計算され、高収入だった場合は負担が重くなる可能性あり
・備考: 退職日の翌日から14日以内に届け出が必要

3.家族の健康保険の被扶養者になる

配偶者や親の健康保険に扶養家族として加入

・メリット: 保険料の負担がなくなる
・デメリット: 失業保険の日額が3,612円以上の場合、扶養家族として認定されないことがある
・備考: 扶養に入れる条件を確認することが重要

年金の切り替え

厚生年金から国民年金への切り替えが必要です。

・手続き
市区町村役場で行います。退職日の翌日から14日以内に届け出ましょう。
・国民年金保険料
月額16,520円(令和5年度)です。
・免除・猶予制度
失業等の理由で支払いが困難な場合は、保険料の免除や猶予制度を利用できます。役場の窓口で相談してみてください。

これらの社会保険の手続きが遅れると、医療費の全額負担や将来の年金額の減少など、大きな不利益を被る可能性があります。倒産の混乱の中でも、これらの手続きは優先的に行うようにしてください。

まとめ

会社の倒産という大変な状況に直面し、退職金や今後の生活について、不安を抱えていらっしゃるかもしれません。しかし、この記事を通じて、倒産したからといって退職金を完全に諦める必要はないこと、そしてあなたを守るための国の制度があることをご理解いただけたでしょうか。

重要なポイントは、次の3点です。

1.退職金の受給権

会社が倒産しても、退職金を受け取る権利は消えません。会社に残された財産から優先的に支払われる場合もあれば、国の「未払賃金立替払制度」で一部が立て替えられることもあります。

2.中退共の確認

もしあなたの会社が中小企業退職金共済制度(中退共)に加入していたら、会社の経営状態に関わらず、規定通りの退職金を受け取れる可能性が高いでしょう。

3.会社都合退職のメリット

倒産による退職は「会社都合退職」となり、失業保険の給付期間が長くなったり、給付制限期間がなくなったりと、生活を支える上で非常に有利になります。

このような複雑な状況を解決するためには、一人で悩まずに専門家のサポートを求めることが何よりも大切です。労働問題や法人破産の知識がある弁護士や社会保険労務士、またはハローワークや労働基準監督署などの専門機関に相談してみましょう。あなたの状況に応じた最適なアドバイスをもらえ、必要な手続きを確実に進めることができるはずです。

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