会社が突然倒産し、給与が支払われない状況は、本当に深刻な不安をもたらすことと思います。しかし、ご安心ください。倒産した会社の未払い給与に対しては、いくつかの救済制度が用意されており、完全に諦める必要はありません。
この記事では、会社が倒産してしまった場合に、給料を受け取るための制度について解説します。あなたの給与は法律で守られており、適切な手続きを踏めば取り戻せる可能性は十分にあります。ぜひ参考にしてください。
倒産した会社の未払い給与はどうなる?救済制度の全体像
まず知っていただきたいのは、あなたの給与は「労働債権」として、法律で特別な保護を受けていることです。つまり、あなたの給与は会社が倒産しても、他の多くの借金よりも優先して支払われるべきものなのです。
ここでは、未払い給与を一日も早く、確実に受け取るために、今すぐやるべきことをまとめました。まずはここから確認してみてください。
【給与未払い】今すぐやるべきことリスト
1.必要な書類を集める
雇用契約書、給与明細、タイムカード、通帳の振込履歴など、勤務や給与に関する書類をすべて手元に集めましょう。後からでは入手が困難になるため、早めに確保することが大切です。
2.労働基準監督署に相談する
給与未払いの事態を伝え、今後の手続きや「未払賃金立替払制度」について詳しく説明を受けてください。無料相談が可能です。
3.未払賃金立替払制度の申請準備
国が未払い給与の一部を立て替えてくれる、最も有力な制度です。
制度の条件や必要書類を確認し、速やかに申請できるよう準備を進めましょう。
4.破産管財人へ連絡する(会社が法的な倒産手続き中の場合)
裁判所が選任した弁護士(破産管財人)に、未払い給与があることを伝え、債権届出の指示を仰ぎます。
5.専門家への相談を検討する
弁護士や社会保険労務士など、労働問題に詳しい専門家はあなたの強い味方です。
無料相談を行っている事務所も多いので、まずは相談してみるのも良い方法でしょう。
倒産処理には、会社の財産を処分して債権者に配当する「清算型(破産手続きなど)」と、事業を継続しながら債務を整理する「再建型(民事再生など)」があります。どちらの手続きが取られるかによって、未払い給与の回収可能性や期間は変わってきますが、いずれにしてもあなたの給与は優先されるべきもの、と覚えておいてください。
会社倒産時に給与未払いが発生するメカニズム
会社が倒産する際に給与の未払いが発生する最も根本的な原因は、やはり「資金繰りの悪化」に尽きます。売上が急激に減少し、取引先からの入金が遅れたり、銀行からの融資が止まったりすることで、従業員への給与支払いに必要な現金が確保できなくなるのです。
経営者としては、会社を立て直したい一心でギリギリまで努力を続けるケースが多いものです。しかし、その結果、給与の支払日になって初めて資金不足が表面化し、従業員は突然の未払いに直面することになってしまいます。
さらに、倒産手続きに入ると、会社の財産は「管財人」という弁護士の管理下に置かれます。この時点で会社の預金口座は凍結され、たとえ残高があったとしても、管財人の許可なしには給与を支払うことができなくなるのです。あなたの給与は、他の債務と合わせて倒産手続きの中で処理されることになりますから、会社と直接交渉するのは難しいのが現実でしょう。
残った会社の資産と給与支払いの優先順位
倒産手続きにおいて、会社に残された資産から支払われる債務(借金)には、法律で厳格な優先順位が定められています。これを理解することは、あなたの未払い給与がどの程度回収できるかを知る上でとても大切です。
まず、最優先されるのは破産手続きの費用や管財人の報酬などです。これらは「共益債権」と呼ばれ、手続きを進めるために不可欠な費用として、他のすべての債権よりも先に支払われます。
次に優先されるのが「優先債権」で、この中に労働者の給与債権が含まれています。あなたの給料や退職金は、一般的な銀行からの借入金や取引先への買掛金、税金など(これらは「一般債権」と呼ばれます)よりも優先されるということです。特に、退職前3ヶ月間の未払い給与は、労働者の生活保障を重視する観点から、さらに優先的なものと位置付けられています。ただし、この優先権が認められるのは、給与債権全体ではなく、退職前3ヶ月間で150万円を上限とした金額です。
ただし、現実的には、共益債権と優先債権を支払った段階で会社の資産が底をつくケースも少なくありません。そのため、会社の資産からの配当だけで未払い給与の全額回収を期待するのは難しいでしょう。だからこそ、「未払賃金立替払制度」のような公的な救済制度の活用が非常に重要なのです。
未払い賃金立替払制度の仕組みと「残り2割」のリアル
会社が突然倒産し、給与が支払われなくなった時、多くの方が頼りにするのが「未払賃金立替払制度」です。しかし、「8割しか支払われない」という話を聞いたことがあるかもしれません。残りの2割はどうなるのかと不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。以下、詳しく解説していきます。
制度で全額カバーされる?「残り2割」が出るパターン
未払賃金立替払制度は、確かに未払い賃金の「8割」を国が立て替えてくれる仕組みです。なぜ全額ではないのか、疑問に思う方もいるでしょう。この「残り2割」が生じるのは、制度の設計によるものです。
国が100%を保障してしまうと、企業側が賃金支払いへの責任感を失う可能性があるためと考えられています。つまり、企業と従業員双方にある程度のリスクを負わせることで、制度の適正な運用を図っているのです。
ただし、この「残り2割」の取り扱いはケースによって異なります。倒産した会社にまだ資産が残っていれば、破産管財人や清算人を通じて、従業員への配当として支払われる可能性もあるでしょう。しかし、会社に全く資産が残っていない場合は、この2割を回収するのは現実的に困難になることが多いです。
また、未払い賃金の総額が立替払制度の上限額を下回る場合は、結果的に全額に近い金額を受け取れることもあります。例えば、未払い賃金が総額20万円で、立替払の上限が25万円の場合、20万円の8割である16万円が支払われます。このように上限額内で活用できるケースもあるのです。
この制度は、突然の倒産で生活に困窮する従業員にとって、当面の生活を支えるための「最後の砦」として機能しています。決して完璧な救済措置ではありませんが、活用することで生活の立て直しへの大きな一歩となるでしょう。
制度を利用するための3つの条件と対象になる未払い賃金
未払賃金立替払制度を利用するためには、次の3つの主要な条件をすべて満たす必要があります。どれか一つでも欠けると、制度の利用ができませんので、ご自身の状況と照らし合わせて確認してみてください。
1.企業の規模と雇用期間
倒産した企業が「労働者災害補償保険(労災保険)」の適用事業所であり、かつ1年以上事業活動を行っていたことが条件です。あなた自身も、倒産日の6か月前から労働者として雇用されていたことが求められます。つまり、短期間だけ働いていた方や、労災保険に加入していない小規模な個人事業主のもとで働いていた方は、この制度の対象外となる場合があるのです。
2.企業の倒産認定
企業の倒産認定には、「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の2つのパターンがあります。
・法律上の倒産
破産手続き、民事再生手続き、会社更生手続きなどが裁判所で開始された場合です。
・事実上の倒産
事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金支払能力がないと労働基準監督署長が認定した場合を指します。
3.未払い賃金の範囲と時期
対象となる未払い賃金は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までの間に支払期日が到来した「定期賃金」と「退職手当」です。定期賃金には、基本給、諸手当、賞与(条件あり)が含まれます。ただし、解雇予告手当や有給休暇買取代金などは対象外となるので注意が必要です。
立替払の対象期間は厳しく制限されています。例えば、3月に倒産した会社で12月から未払いが続いている場合、12月分の給与は対象外となり、1月から3月までの3か月分のみが対象となることもあるのです。
退職手当については少し複雑です。退職前6か月間に支払われるべきだった定期賃金の総額と同額が上限となります。本来の退職金が高額であっても、直近の給与水準に基づいて上限が設定されるため、期待していた金額より少なくなる可能性があることを知っておいてください。
これらの条件を正確に理解し、自分のケースが該当するかどうかを判断するのは容易ではありません。特に事実上の倒産認定や未払い賃金の範囲の特定などは専門的な知識が必要です。労働基準監督署での初回相談は無料ですから、まずは相談してみてはいかがでしょうか。複雑なケースでは、社会保険労務士や労働問題に詳しい弁護士に相談することで、より確実に制度を活用することができるでしょう。
申請から受け取りまでの流れと期間
未払賃金立替払制度の申請から実際に給付を受け取るまでの流れは、会社の倒産が「法律上の倒産」か「事実上の倒産」かによって大きく異なります。全体の流れを把握しておくことで、受け取り時期の目安が立てやすくなります。
【法律上の倒産の場合】
法律上の倒産では、比較的スムーズに手続きが進む見込みがあります。
1.破産手続き開始、管財人選任
裁判所で破産手続きなどが開始され、破産管財人(弁護士)が選任されます。
2.未払賃金の確認・証明書発行
管財人が未払い賃金の存在を確認し、「未払賃金の額等の証明書」を発行します。
3.立替払申請
この証明書と、雇用契約書や給与明細、退職証明書などの必要書類を添えて、あなたが独立行政法人労働者健康安全機構に立替払を申請します。
4.立替払実行
書類が整っていれば、申請から約1か月程度で立替払が実行されるでしょう。
ただし、破産管財人による証明書の発行までに2~3か月程度かかることが多いため、倒産から受け取りまでは概ね3~4か月程度を見込んでおくのが現実的でしょう。
【事実上の倒産の場合】
事実上の倒産では、手続きがより複雑で時間がかかる傾向にあります。
1.労働基準監督署への認定申請
まず、労働基準監督署に「事実上の倒産の認定申請」を行います。
2.認定調査
労働基準監督署が、会社の事業停止状況や賃金支払能力の欠如などを詳細に調査します。この調査には通常2~4か月程度かかるでしょう。
3.未払賃金の確認・証明書発行
認定後、労働基準監督署長が「未払賃金の額等の証明書」を発行します。
4.立替払申請・実行
その後の流れは法律上の倒産と同様です。
事実上の倒産では、会社の財務状況や未払い賃金の実態把握により時間がかかるため、全体で6~8か月程度の期間を要することも珍しくありません。
【申請手続きの注意点】
1.必要書類の準備
会社が倒産している状況では、給与明細や雇用契約書などの書類を入手するのが困難な場合もあります。その際は、通帳の振込記録、源泉徴収票、同僚の証言などが代替手段として認められることもあります。タイムカードや業務日報も勤務実態を証明する重要な資料となるでしょう。
2.時効と期限
立替払には時効があります。倒産日(法律上の倒産の場合は倒産手続き開始決定日、事実上の倒産の場合は認定日)から2年以内に申請を行わなければ、権利が消滅してしまいます。また、退職してから1年を経過した場合も申請できなくなるため、早めの手続きが非常に重要です。
3.進捗確認
手続きの進捗状況は、労働者健康安全機構や労働基準監督署に問い合わせることで確認できます。特に事実上の倒産の場合は、認定までの期間が長いため、定期的に進捗を確認し、必要に応じて追加資料の提出に応じることが、スムーズな手続きにつながるでしょう。
実際に受け取れる金額と上限、計算例
未払賃金立替払制度で実際に受け取れる金額は、あなたの年齢と未払い賃金額によって決まる上限額、そして未払い賃金の8割という2つの要素で計算されます。具体的な数字で理解しておきましょう。おおよその受取額を事前に把握できます。
年齢別上限額(未払い賃金総額に対する制限)
- 45歳以上:上限額 370万円
- 30歳以上45歳未満:上限額 220万円
- 30歳未満:上限額 110万円
この上限額は、未払い賃金総額に対するものです。実際に立て替えられる金額は、この上限額と未払い賃金総額のどちらか低い方の8割となります。
【具体的な計算例】
例1: 42歳の方、月額30万円の給与が3か月間未払い
・未払い賃金総額: 30万円 × 3か月 = 90万円
・年齢区分の上限: 220万円(30歳以上45歳未満)
・上限額以内に収まるため、立替払額は90万円の8割 → 72万円
例2: 48歳の管理職の方、月額50万円の給与が6か月間未払い
・未払い賃金総額: 50万円 × 6か月 = 300万円
・年齢区分の上限: 370万円(45歳以上)
・上限額以内に収まるため、立替払額は300万円の8割 → 240万円
例3: 28歳の方、月額40万円の給与が4か月間未払い(上限の制約を受けるケース)
・未払い賃金総額: 40万円 × 4か月 = 160万円
・年齢区分の上限: 110万円(30歳未満)
この場合、未払い賃金総額は160万円ですが、上限が110万円のため、立替払額は110万円の8割 → 88万円となります。本来なら128万円(160万円×0.8)受け取れるはずが、上限により88万円に制限されてしまうのです。
【退職手当・賞与の計算】
・退職手当
上限は、退職前6か月の定期賃金総額と同額までです。例えば、退職前6か月の定期賃金が月額30万円だった場合、退職手当として立替払の対象となるのは最大180万円(30万円×6か月)までとなります。実際の退職金が300万円あったとしても、180万円分についてのみ立替払の対象となり、その8割が支払われることになるでしょう。
・賞与
定期賃金と同様に扱われますが、支払期日が退職日前6か月以内に到来したもののみが対象です。
【計算の注意点】
・額面金額で計算
社会保険料や税金の控除は考慮されません。立替払は未払い賃金の総支給額(税込み)を基準に計算されます。
・既に一部支払いを受けている場合
会社から一部でも支払いを受けている場合は、その分を差し引いた残額が立替払の対象となります。
正確な受取額を計算するためには、給与明細や雇用契約書などの詳細な資料が不可欠です。特に退職手当や賞与が絡むなど複雑なケースでは、労働基準監督署や専門家に相談して、事前に見積もりを出してもらうことをおすすめします。
立替払制度を利用する際の注意点と落とし穴
会社の倒産で未払い賃金が発生し、立替払制度の利用を検討されている方も多いでしょう。この制度は非常に心強い味方ですが、いくつか意外な落とし穴や誤解されやすいポイントがあるのも事実です。以下、解説していきます。
制度利用時のよくある誤解・デメリット
多くの方が「未払い賃金の全額が補償される」と考えがちですが、実際はそうではありません。立替払制度には明確な上限額が設定されており、年齢に応じた限度額が決まっています。先ほど解説した通り、未払い賃金総額の8割が対象となるため、実際の未払い額が上限を超える場合は、差額は自己負担となってしまいます。
また、立替払の対象となるのは「賃金」や「退職手当」のみで、慰謝料や損害賠償金などは含まれません。賞与についても、算定対象期間の賃金総額に含まれる額には上限が設けられているので注意しましょう。
手続きの面では、労働基準監督署への申請には、破産手続開始の決定などがあった日の翌日から2年以内という期限があります。この期限を過ぎてしまうと制度を利用できなくなるため、早期の対応が不可欠です。
制度利用できない場合や立替金が少ない場合
立替払制度が利用できないケースや、期待より立替金が少なくなるケースも存在します。
最も重要な条件の一つが「労災保険の適用事業所であること」です。労災保険に未加入の会社で働いていた場合、原則として立替払制度は利用できません。また、会社が「事実上の倒産状態」にあっても、法的な倒産手続きが開始されていない場合は、労働基準監督署長による「事実上の倒産」の認定が必要です。この認定基準は厳格で、単に給与が遅れているだけでは認められないこともあります。
立替金が期待より少なくなるケースとしては、未払い賃金の算定期間が退職日の6か月前からとなっているため、それ以前の未払い分は対象外です。さらに、賞与については、退職日の6か月前の期間内であっても、支給対象期間が当該6か月間よりも前から継続している場合は、その部分が除外される可能性があります。
経営者への責任追及や追加請求の可能性
立替払制度を利用したからといって、未払い賃金の問題がすべて解決するわけではありません。立替払は国による一時的な救済措置であり、最終的な支払い責任は依然として会社(経営者)にあります。
立替払制度による支払いを受けた場合でも、未払い賃金の残額(2割分や上限額を超えた分など)や、立替払の対象外となった部分については、会社や経営者に対して請求する権利が残されています。特に、経営者が個人的に会社の借金や従業員の給与を保証していた場合や、会社の財産が不当に隠されている可能性がある場合には、追加で回収できる可能性もゼロではありません。
ただし、現実的には倒産した会社から追加回収することは困難な場合が多いのも事実です。破産手続きが進行している場合、債権者として配当を受けられることもありますが、一般の債権者への配当率は非常に低いのが通常でしょう。
経営者個人への責任追及を検討する場合は、法的手続きが複雑になることがあります。経営者の個人財産の調査や、役員としての責任を問うなど、専門的な判断が求められる場面が多いでしょう。
立替払以外の救済手段とその有効性
立替払制度以外にも、未払い賃金の回収方法はいくつかあります。これらの手段を検討することも大切です。
・労働審判や民事訴訟
会社にまだ資産が残っている場合や、経営者が個人保証を行っている場合には、裁判所での労働審判や民事訴訟を通じて直接請求することも有効です。
・仮差押えや強制執行
会社の預金口座や不動産、売掛金などを差し押さえることで、未払い賃金の回収を図る手続きです。ただし、これらの手続きは倒産手続きが開始される前に実行する必要があり、タイミングが非常に重要になります。
・労働組合を通じた交渉
個人での交渉では限界がある状況でも、労働組合の力を借りることで、より有利な条件での解決が期待できることがあります。同じ会社の複数の従業員が被害を受けている場合、連携して対応することで交渉力を高めることも可能でしょう。
・社会保険料の滞納に関する相談
会社が社会保険料を滞納している場合は、年金事務所やハローワークに相談することで、別の角度からの解決策が見つかることもあります。健康保険や厚生年金の保険料についても、会社の滞納分であなたが不利益を被らないよう、一定の救済措置が設けられています。
これらの選択肢を適切に組み合わせることで、立替払制度だけでは回収できない部分についても、一定の救済を得られる可能性があります。ただし、どの手段が最も効果的かは個別の状況によって大きく異なるため、労働問題に詳しい弁護士や司法書士などの専門家に相談し、ご自身の状況に最も適した方法を見つけることが重要です。
未払い給与を早く確実に受け取る方法
未払い給与は法的に保護された債権(あなたのお給料を受け取る権利)ですから、適切な手続きを踏めば回収できる可能性があります。ここでは、未払い給与を早く確実に受け取るための具体的な行動について解説していきます。
今すぐ集めるべき証拠資料と保管方法
未払い給与の回収を成功させるためには、労働関係を証明する資料をできる限り多く集めることが不可欠です。会社が倒産した後では、これらの書類を入手するのが困難になる可能性が高いため、今すぐに行動を開始してください。
【集めるべき証拠資料チェックリスト】
1.雇用契約書または労働条件通知書
基本給、諸手当、給与の支払い方法、支払日などが記載されており、未払い給与の計算根拠となります。手元になければ、人事部や総務部に連絡して至急入手しましょう。
2.給与明細書
できるだけ直近3ヶ月分以上。基本給だけでなく残業代や各種手当の支給実績も証明できます。
3.タイムカード、シフト表、業務日報
残業代が関係する場合に重要です。可能であれば写真撮影やコピーを取っておきましょう。
4.銀行口座の給与振込履歴
通帳やネットバンキングの画面を印刷することで、給与の支払い実績と未払いの期間を明確に示せます。
5.退職証明書(または在職証明書)
退職日や勤務期間を証明します。
6.健康保険被保険者証のコピー
会社に在籍していた証拠となります。
会社からの連絡文書、与未払いに関する通知、倒産に関する連絡などがあれば保管しましょう。
7.メールやチャットのやり取り
会社や上司との給与に関するやり取りも証拠となり得ます。
【資料の保管方法】
これらの資料は、原本とコピーを分けて保管し、複数の場所に分散して保存することをお勧めします。デジタル化できるものはスキャンやスマートフォンでの撮影を行い、クラウドストレージにも保存しておくと安心でしょう。また、各書類には日付を記入し、いつ何を入手したかを記録しておくと、後の手続きがスムーズになります。
労働基準監督署への申告方法・必要書類一覧
労働基準監督署への申告は、未払い給与問題の解決において最も身近で効果的な方法の一つです。労働基準監督署は厚生労働省の地方機関で、労働基準法違反の企業に対して指導・勧告を行う権限を持っています。まずは管轄する労働基準監督署を確認し、電話で相談の予約を取ってみましょう。
【申告に必要な書類】
先ほど説明した証拠資料に加えて、申告書の作成が必要です。労働基準監督署では申告書のひな形を提供してくれますから、事前に問い合わせて入手するか、訪問時に記載することも可能です。
具体的な必要書類は以下の通りです。
必要な書類
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 給与明細書(3ヶ月分以上)
- タイムカードや出勤簿(残業代が関係する場合)
- 銀行口座の振込履歴
- 健康保険被保険者証のコピー
- 退職証明書または在職証明書
- 会社からの連絡文書(給与未払いに関する通知など)
申告の際は、時系列を整理して説明できるよう準備しておくことが大切です。いつから給与が未払いになったか、会社からどのような説明があったか、現在の生活状況はどうか、といった点を簡潔にまとめておきましょう。
申告後、労働基準監督署から会社に対して調査や指導が行われます。ただし、会社が既に倒産している場合は、直接的な解決は困難な場合もあるでしょう。それでも、申告によって労働債権の存在が公的に記録されるため、破産手続きや未払賃金立替払制度の利用時に有利になることも期待できます。
破産管財人との連絡ポイントと問い合わせ例文
会社が法的な破産手続きを行っている場合、裁判所から「破産管財人」という弁護士が選任されます。この破産管財人が会社の財産管理や、あなたの給与を含む債権者への配当を行う重要な役割を担います。管財人側から積極的に連絡してくることは少ないため、こちらから適切なタイミングで連絡を取ることが重要です。
破産管財人の連絡先は、通常、裁判所の破産係で確認できるほか、官報の公告や、会社から従業員に対して通知される場合もあるでしょう。連絡する際は、記録に残すため電話よりもメールや書面での問い合わせをおすすめします。ただし、緊急性がある場合や複雑な内容については、電話で事前に相談してから書面で正式に申し出ることも効果的です。
問い合わせ時に伝えるべき重要なポイントは次の通りです。
問い合わせ時に伝えるべきポイント
- あなたの身分(元従業員であること)
- 勤務期間
- 未払い給与の詳細(金額、期間、計算根拠)
- 労働債権として届け出たい旨の意思表示
また、既に労働基準監督署に申告している場合や、未払賃金立替払制度の利用を検討している場合は、その旨も併せて伝えてください。これにより、管財人が適切な手続きを指示してくれるでしょう。
ただし、破産手続きは複雑で時間もかかるため、並行して他の回収方法も検討することが大切です。状況によっては、労働問題に詳しい弁護士や司法書士に相談することで、より効率的な解決策を見つけることができる場合もあるでしょう。
まとめ
倒産により給与が支払われない状況は、労働者や従業員にとって極めて深刻な問題です。しかし、決してひとりで抱え込む必要はありません。国や専門家による様々な救済制度や相談窓口が用意されており、適切な手続きを踏むことで未払い賃金の回収や生活の立て直しが可能になるケースが多くあります。
未払賃金立替払制度は、倒産企業の従業員にとって最も確実性の高い救済手段のひとつです。退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来していた定期賃金や退職手当が対象となり、年齢に応じて未払額の8割が支給されます。ただし、この制度には上限額や申請期限があるため、早めの手続きが非常に重要です。
また、破産管財人がいる場合の財団債権としての請求や、労働基準監督署への申告といった複数の選択肢を並行して進めることで、より確実な回収につながる可能性が高まります。会社に残存財産がある場合は、一般債権としての届出も忘れずに行っておくことで、配当を受けられる機会を逃さずに済むでしょう。
給与未払いの問題は、単なる金銭的な損失にとどまらず、生活基盤そのものを脅かす深刻な事態です。住宅ローンや子どもの教育費、日々の生活費に直結する問題だからこそ、感情的になったり諦めたりせず、冷静に利用できる制度を把握し、適切な手順で対処していくことが何より大切になります。
こうした複雑な手続きを一人で進めるのは、心理的にも実務的にも大きな負担となるものです。大阪にある川端総合法律事務所は、中小企業や個人事業主の破産・倒産を専門とする法律事務所です。全国から電話やメールにて、相談を無料で受付しています。従業員の方も、会社を経営されている方も、まずはお早めにご相談いただきたいと思います。