資金繰りが苦しくなり、銀行からの融資も厳しくなってきた。従業員の給料も遅れがちで、取引先からの支払いも滞っている——。そんな状況に追い込まれた時、経営者として最も重要なのは「どの手続きを選ぶか」という判断です。
法人の債務整理は、決して「失敗」や「終わり」を意味するものではありません。むしろ、会社とあなた自身を守り、未来を切り開くための戦略的な選択肢の一つなのです。多くの企業が、この道を選び、経営困難な状況から再起を果たしています。事業を継続する道もあれば、適切な形で事業を終了し、新たな一歩を踏み出す道もあります。
この記事では、法人の債務整理は本当に可能なのか、そしてどのような選択肢があり、どう進めるべきかについて、経営者のあなたが知るべき重要なポイントを解説します。
法人の債務整理は本当に可能?まず知るべき基本と選択肢
法人の債務整理と一口に言っても、その実態は多様です。弁護士が債権者と交渉して返済条件を緩和する「私的整理」、裁判所を通して借金を大幅に圧縮する「民事再生」、そして会社を清算する「法人破産」など、それぞれに目的とリスク、そして適したタイミングがあります。
法人も債務整理できる!個人との違いと基本的な仕組み
法人の債務整理は確かに可能です。実際に多くの企業が、経営危機を乗り越えて立ち直ったり、適切な形で事業を清算したりしています。しかし、個人の債務整理とは大きく異なる点があることを、経営者として理解しておく必要があります。
最も大きな違いは、法人には個人の自己破産における「免責」という概念が存在しないことです。個人の場合、自己破産手続きが完了すると、原則として残りの借金の支払い義務は免除されます。一方、法人の場合は、会社自体が消滅(解散・清算)することで、債務関係が終了するという仕組みになっています。
また、法人の債務整理では、代表者の責任も重大です。多くの中小企業では、代表者が会社の借入れに対して連帯保証人になっていることが一般的で、この場合、会社の債務整理を行っても、代表者個人の保証債務は残ってしまいます。そのため、代表者自身も個人として、同時に債務整理を検討する必要になることも少なくありません。
法人の債務整理における基本的な仕組みは、債権者(銀行や取引先など)との間で、返済条件の変更や債務の一部免除を交渉することに他なりません。これは、債権者にとっても会社が倒産して全く回収できなくなるよりは、一部でも回収できる方が有利であるためです。誠実な交渉姿勢と実現可能な再建計画があれば、債権者の協力を得られる可能性は十分にあります。
事業を続けるか畳むか?2つの方向性を理解する
法人の債務整理を検討する際、最初に決めるべきは「事業を継続するか」「事業を終了するか」という根本的な方向性です。この判断によって、取るべき手続きが大きく変わってきます。
事業継続を前提とした債務整理は、会社の収益性や将来性を維持しながら、債務の負担を軽減することが目的です。この場合、「再建型」と呼ばれる手続きを選択することが多くなります。裁判所の監督の下で債権者と返済計画について合意し、計画に従って返済を続けていくのが一般的です。事業が軌道に乗れば、従業員の雇用を維持し、取引先との関係も継続できる可能性があります。
一方、事業終了を前提とした債務整理は、会社の資産を適切に処分し、可能な限り債権者に配当することを目標とします。これは「清算型」の手続きに該当します。事業の継続が困難で再建の見込みが立たない場合や、代表者が高齢で事業承継の予定がない場合などに選択され、計画的に手続きを進めれば、従業員への対応や取引先への迷惑を最小限に抑えることも可能です。
どちらの方向性を選ぶかは、会社の財務状況、事業の将来性、代表者の意向、そして従業員や取引先への影響など、様々な要素を総合的に判断することが大切です。
裁判所を使う方法と使わない方法、どちらを選ぶべきか
法人の債務整理には、裁判所を通じて行う法的な手続きと、裁判所を通さずに債権者と直接交渉する私的な手続きがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、会社の状況に応じて最適な方法を選ぶことになります。
裁判所を使う法的手続きは、民事再生、特別清算、破産などです。これらの手続きの最大のメリットは、法的な強制力があることでしょう。一部の債権者が反対しても、法定の要件を満たせば手続きを進められます。また、手続き開始の申立てと同時に、債権者からの取立てや強制執行を停止させることができるため、資金繰りの改善や事業の安定化を図りやすいこともメリットです。
ただし、法的手続きにはデメリットも存在します。裁判所での手続きは公開されるため、取引先や金融機関に経営困難な状況が知られてしまう可能性があり、これによって信用が失墜し、新規取引が困難になったり、既存の取引を打ち切られたりすることもあるでしょう。また、手続きに時間がかかり、弁護士費用などのコストも相当な金額になることが一般的です。
一方、私的な債務整理は、債権者との直接交渉によって返済条件の変更や債務の減免を図る方法です。この方法のメリットは、柔軟性が高く、迅速に解決できる可能性があることです。また、手続きが公開されないため、対外的な信用への影響を抑えることができるでしょう。費用も法的手続きと比べて抑えられる傾向にあります。
しかし、私的整理ではすべての債権者の同意が必須です。一人でも反対する債権者がいれば、手続きは成立しません。法的な強制力がないため、合意後に債権者が約束を破る可能性も否定できません。そのため、債権者数が多い場合や、債権者間の利害が対立している場合には向いていない方法と言えます。
どちらの方法を選ぶべきか、それは債権者の数や債権額、事業の状況、時間的な制約など、様々な要素を考慮して判断すべきでしょう。
あなたの会社に最適な手続きは?4つの選択肢
経営危機に陥った企業が取りうる選択肢は、大きく分けて4つあります。それぞれに特徴があり、会社の規模や財務状況、事業の将来性によって最適な方法は変わるものです。まずは各手続きの基本的な仕組みを理解し、自社の状況と照らし合わせて検討することが重要になります。
これらの手続きは、事業を継続しながら再建を図る「再建型」と、事業を清算する「清算型」に大別されます。また、裁判所が関与する法的な手続きと、当事者間の交渉による私的な手続きという違いもあります。
最適な選択は、会社の将来性、債務の規模、関係者の協力度合いなどを総合的に判断して決めるべきものです。
【法人の債務整理:4つの選択肢の比較】
1.【民事再生(再建型・法的手続き)】
・メリット:債務を大幅に減額でき、事業を継続しながら再建が可能。経営者が経営権を維持できる。強制執行が停止され、従業員の雇用も守れる。
・デメリット:手続きが公開されるため信用への影響が大きく、費用も高額。手続きが複雑で、事業の将来性が求められる。
・費用目安:200万〜500万円以上(弁護士費用+予納金)
・期間目安:計画認可まで約6ヶ月〜1年。返済期間は3〜5年程度。
・適したケース:事業に将来性があり、経営を継続したい場合。債権者が多い場合。
2.【私的整理(再建型・私的手続き)】
・メリット:手続きが非公開で、信用への影響を抑えられる。柔軟な交渉が可能で、費用を抑えられる場合がある。
・デメリット:全ての債権者の同意が必要で、強制力がないため交渉が頓挫するリスクがある。債務の減額幅も限定的。
・費用目安:100万〜300万円程度
・期間目安:数ヶ月〜1年程度
・適したケース:債権者が少数で協力的な場合。信用失墜を避けたい場合。
3.【破産手続き(清算型・法的手続き)】
・メリット:会社の全ての債務が消滅し、経営者の借金問題から解放される(ただし個人保証は別途必要)。手続きの流れが比較的明確。
・デメリット:事業は完全に停止し、従業員や取引先への影響が大きい。経営者個人が連帯保証している場合は個人破産も必要になる。
・費用目安:100万〜300万円程度
・期間目安:6ヶ月〜1年程度(複雑な場合は2年以上)
・適したケース:事業継続が困難で、再建の見込みがない場合。
4.【特別清算(清算型・法的手続き)】
・メリット:破産よりも手続きが簡略化され、費用を抑えられる。会社法に基づき、株主・債権者の合意で円満な清算を進められる。
・デメリット:債権者の過半数の同意が必須で、同意が得られない場合は破産に移行する可能性がある。
・費用目安:50万〜150万円程度
・期間目安:3ヶ月〜6ヶ月程度
・適したケース:債権者が少なく、合意形成が容易な場合。株主が会社清算に同意している場合。
1.【再建型】民事再生:事業と雇用を守りながら再起を図る
民事再生は、中小企業にとって最も利用しやすい法的再建手続きの一つです。この制度の最大の特徴は、現在の経営陣がそのまま会社の運営を続けながら、債務の一部をカットしてもらえることです。つまり、社長であるあなたが引き続き会社を経営し、従業員の雇用を維持しながら、借金を大幅に減らすことができるのです。
手続きの流れとしては、まず裁判所に申立てを行い、再生手続開始決定を受けます。その後、債権者に対して再生計画案を提示し、債権者の同意が得られれば計画が認可される運びです。一般的に、債務を5分の1から10分の1程度まで減額し、残った債務を3年から5年で分割返済していくことになります。
ただし、民事再生が成功するためには、事業に将来性があることが前提条件です。売上が継続的に見込め、再生計画に沿った返済が可能な収益力が必要とされます。また、手続き中も取引先との関係を維持し、従業員のモチベーションを保つことが経営者の重要な役割となるでしょう。申立て後も通常業務を続けなければならないため、相当な精神的・肉体的負担を覚悟する必要があります。
2.【再建型】私的整理:信用を守り、内密に交渉する
私的整理は、裁判所を通さずに、債権者と直接交渉して債務の整理を行う方法です。この方法の最大のメリットは、手続きが非公開で進められることです。法的手続きと異なり、取引先や従業員に知られることなく債務整理を進めることができるため、事業への悪影響を最小限に抑えたい場合に有効な選択肢となります。
具体的には、主要な債権者である銀行や取引先に対して、返済条件の変更や債務の一部免除を直接お願いすることになります。例えば、月々の返済額を減らしてもらったり、返済期間を延長してもらったり、場合によっては債務の一部をカットしてもらったりすることも可能です。金融機関の場合、「リスケジュール(返済条件変更)」として対応してくれることも多いでしょう。
ただし、私的整理が成功するためには、すべての債権者の同意が不可欠です。一つの債権者でも反対すれば、手続きは頓挫してしまいます。また、債権者にとって法的手続きよりも有利な条件を提示する必要があるため、債務の減額幅は限定的になることが一般的です。さらに、税務上の問題や、債権放棄を受けた場合の債務免除益の扱いなど、専門的な知識が必要な側面も存在します。
3.【清算型】破産:すべてを清算し、新たな一歩を踏み出す
破産手続きは、事業の継続を断念し、会社を清算する手続きです。裁判所に申立てを行い、破産管財人が選任されて、会社の財産を現金化して債権者に配当します。その時、あなたは経営者としての役割を終えることになります。
破産のメリットは、手続きが比較的明確で、結果が予測しやすいことです。また、破産手続きが完了すれば、会社の債務はすべて清算され、経営者個人が連帯保証していない限り、借金の悩みから完全に解放されます。従業員についても、未払い賃金立替払制度により、一定範囲で賃金の支払いが保障される仕組みがあります。
一方で、破産にはデメリットも多くあります。まず、事業が完全に停止するため、従業員全員が職を失うことになるでしょう。取引先に対しても、売掛金の回収や継続的な取引関係の維持ができなくなるため、大きな迷惑をかけることになります。また、経営者個人が連帯保証をしている場合、個人も同時に破産手続きを取らざるを得ない状況になることが少なくありません。
4.【清算型】特別清算:円満な廃業を目指す
特別清算は、株式会社が解散し、その財産を処分して債権者に分配する清算手続きの一つです。破産手続きと異なり、債権者集会での決議により、債権者からの同意を得て手続きを進めることが特徴です。会社法に基づき、株主や債権者の合意形成を前提としているため、破産手続きよりも柔軟な解決が期待できる場合もあります。
この手続きのメリットは、破産手続きに比べて裁判所による監督が緩やかで、比較的費用を抑えられる傾向にあることです。また、債権者との合意に基づいて手続きが進むため、円満に廃業をできるとも言えます。会社の清算理由が一時的な資金難などであり、かつ、主要な債権者から協力を得られる見込みがある場合に特に有効です。
しかし、特別清算が成立するためには、債権者集会で議決権者の過半数、かつ議決権総額の3分の2以上の同意を得る必要があります。この同意が得られない場合、手続きは破産へと移行する可能性が高いでしょう。また、破産手続きと同様、会社は消滅するため、事業の継続はできません。
特別清算は、債権者数が少なく、関係者との合意形成が比較的容易な中小企業にとって、破産よりも穏便な清算方法となる場合があります。円満な形で事業を終えたいと考える経営者にとっては、検討に値する選択肢です。
経営者が最も恐れる「個人保証」の行方とは?
会社の資金繰りが悪化し、「このままでは立ち行かない」と感じている経営者の方にとって、法人破産は避けて通れない選択肢の一つかもしれません。しかし、多くの中小企業経営者が抱える最大の不安は「会社が破産したら、個人保証はどうなるのか」という点ではないでしょうか。この問題は、経営者にとって極めて複雑で重大な決断を伴うものです。
原則として、社長個人の返済義務は残る
会社の債務に対して個人保証を行っている場合、法人が破産手続きに入ったとしても、保証債務は自動的に消滅するわけではありません。これは、法人と個人が法的に別の人格であるためです。債権者は保証人である経営者個人に対して、引き続き債務の履行を求めることができるのが原則となります。
例えば、会社が民事再生により債務を大幅に減額できたとしても、社長が個人保証している債務は原則として全額残ってしまいます。連帯保証人である社長には、残りの全額を一括で請求される可能性もあるでしょう。
配偶者や親族、友人に連帯保証人になってもらっている場合、法人が債務整理を行うと、その方々にも債権者から一括請求が行われることになります。多大な迷惑をかけることになるため、事前の相談と理解を得ることが不可欠です。
救済策はあるか?「経営者保証ガイドライン」とは
すべてのケースで個人の財産がすべて失われるというわけではありません。保証債務の内容や規模、個人の資産状況、家族の状況などを総合的に判断し、個人の民事再生手続きや自己破産手続きといった法的整理を併せて検討することで、経営者個人の生活再建への道筋を見つけることも可能です。
また、近年では「経営者保証に関するガイドライン」の活用により、一定の条件を満たした場合には保証債務の整理がより柔軟に行われるケースも増えています。このガイドラインは、法人と経営者個人の財産が明確に分離されており、法人のみの資産で事業が行われていたことを証明できれば、個人保証の責任を軽減できる可能性があるというものです。
しかし、多くの中小企業では法人と個人の財産が混然一体となっているため、ガイドラインの適用を受けるのが現実的には困難なケースも少なくありません。
重要なのは、状況が悪化する前に適切な専門家に相談し、会社と個人の両面から最適な解決策を模索することです。企業法務に精通した弁護士は、個々の状況に応じて様々な選択肢を提示し、経営者とその家族の将来を見据えた現実的なアドバイスを提供してくれます。
債務整理を成功させるために
経営者として資金繰りが悪化し、債務整理を検討されている方にとって、どのタイミングで、どのような準備をして進めるべきかは極めて重要な判断です。適切な対応により、事業の継続や再建への道筋を見つけることができる可能性は高まります。
いつ動くべきか?債務整理の判断基準とタイミング
経営者として債務整理を検討すべきタイミングを見極めることは、事業の将来を左右する重要な決断です。まず確認していただきたいのは、月次の資金繰り表を見て、向こう3か月以内に資金ショートする可能性があるかどうかです。
具体的な判断基準として、毎月の売上から固定費(人件費、家賃、リース料など)を差し引いた残額が、借入金の返済額を下回る状態が3か月以上続いている場合は、債務整理の検討が必要な段階に入っていると考えられます。また、取引先からの入金が遅れがちになったり、支払いを待ってもらう交渉をする頻度が増えている場合も、早期の対応が求められるサインです。
さらに重要なのは、経営者個人の保証債務の状況です。法人の借入に対して連帯保証をしている場合、法人が債務整理を行うと個人にも影響が及びます。個人の資産(自宅、預貯金、保険など)と保証債務の総額を比較し、個人破産の可能性も視野に入れた検討が必要になるでしょう。
ただし、一時的な資金繰りの悪化であれば、金融機関との返済条件の変更(リスケジュール)で乗り切れる場合もあります。売上の回復見込みがあり、事業計画の修正により立て直しが可能と判断できる場合は、債務整理以外の選択肢も検討する価値があるはずです。
最適なタイミングの見極めには、月末・月初の資金繰りを詳細に確認し、支払い停止に至るまでの猶予期間を正確に把握することが必要になります。一般的に、支払い停止から法的手続きの申立てまでには1〜2か月程度の準備期間が必要になるため、資金ショートの2〜3か月前には検討を始めることが望ましいでしょう。
専門家への相談と依頼
経営者の債務整理は複雑な法的手続きを伴うため、弁護士や司法書士などの専門家への相談は不可欠です。早期の相談により、個々の状況に応じた最適な解決方法を見つけることができ、経営者としての責任を果たしながら新たなスタートを切ることが可能になります。
法的手続きを進める上で、弁護士への依頼はほぼ必須と考えてください。弁護士費用の算定方法は事務所によって異なりますが、一般的な相場をご紹介します。
法人破産の弁護士費用は、着手金50万円から150万円程度が相場です。従業員数や債務額、事業所の数などによって金額が決まります。例えば、従業員5名程度の小規模な会社であれば80万円程度、20名を超える規模になると120万円以上を覚悟する必要があるでしょう。成功報酬は設定されないことが多く、着手金のみで契約するのが一般的です。
民事再生の場合は、手続きが複雑で長期間にわたることから、弁護士費用も高額になります。着手金150万円から300万円、成功報酬として再生計画認可決定時に50万円から100万円程度を支払うケースが多いものです。事業規模が大きくなればさらに高額になり、年商数億円の会社では500万円を超えることも珍しくありません。
これらの弁護士費用に加え、裁判所に納める予納金も大きな負担となります。
・法人破産の場合
債権者数や事業規模によって変動しますが、一般的な中小企業では50万円から200万円程度が相場です。従業員が20名程度の製造業であれば100万円前後、債権者が多数存在する小売業では150万円を超えることもあります。この予納金は管財人の報酬や手続き費用として使われるため、必ず現金で準備する必要があります。
・民事再生手続きの場合
予納金はさらに高額になる傾向があり、負債総額1億円未満の小規模な会社でも200万円から300万円、それ以上の規模になると500万円を超えるケースも多々あります。
・特別清算の場合
比較的費用を抑えられる手続きで、予納金は20万円から50万円程度に収まることが多いでしょう。
弁護士選びで重要なのは、単純に費用の安さだけで判断しないことです。倒産・再生手続きの経験が豊富な弁護士を選ぶことで、結果的に手続きが円滑に進み、全体的なコストを抑えられる可能性があります。また、分割払いに応じてくれる事務所もありますので、一括での支払いが困難な場合は相談時に確認してみてください。
法テラスの利用も一つの選択肢です。法人の場合は法テラスの利用はできませんが、個人保証が関連している場合には、収入や資産が一定基準以下であれば、弁護士費用の立替制度を利用できる場合があります。
関係者(取引先・従業員)への説明方法と注意点
債務整理における関係者への説明は、一律の正解はありませんが、手続きの種類や事業継続の可否によって、適切なアプローチは変わってきます。法人の債務整理は事業の存続に大きく影響するだけでなく、関係者へ影響の大きさも、計り知れないものです。
取引先への説明
民事再生など事業継続を前提とした手続きの場合、申立て前後のタイミングで主要な取引先に対して説明を行うことが一般的です。重要な仕入先や大口の得意先については、手続き申立ての1週間から2週間前に、経営陣が直接訪問して事情を説明することが望ましいでしょう。この際、事業継続への意欲と具体的な再建計画の概要を示すことで、継続的な取引関係の維持を図ることができます。清算型の手続きを選択する場合は、債権者集会の開催通知と同時期に、取引先に対して事業終了の旨を伝える必要があります。
従業員への説明
従業員に対しては、労働債権が一般債権よりも優先的に保護されることを踏まえ、雇用継続に向けた具体的な方針を示すことが重要です。不安を煽らないよう配慮しつつも、現状と今後の見通しについて誠実に説明し、従業員の協力を求める姿勢が求められます。特に管理職や中核となる技術者については、個別に面談を行い、会社再建への参画を依頼することも検討すべきでしょう。雇用の継続が困難になる場合は、労働基準監督署への届出や未払賃金立替払制度の活用について事前に調べておく必要があります。
手続き中の事業運営における注意点
手続き開始前の注意点として、特定の債権者だけに優先的に返済を行う偏頗弁済は法的に問題となる可能性があります。債務整理を検討している段階では、返済の優先順位について専門家の助言を受けることが重要です。また、資産の隠匿や不当な処分も後の手続きに悪影響を与えるため、資産の動かし方には細心の注意が必要です。
手続き中の事業運営では、通常の経営判断とは異なる法的制約や実務上の注意点があります。これらを理解せずに運営を続けると、手続き自体に悪影響を与えたり、経営陣の責任が問われたりする可能性も出てきます。
・財産の処分・債務発生
裁判所や管財人の許可が必要になる場合が多いでしょう。事業に必要な範囲を超える設備投資や不動産の売却、重要な契約の締結については、事前に裁判所の許可を得る必要があります。
・資金管理
手続き開始後に発生した債務(共益債権)は優先的に弁済する必要がある一方、既存債権者への弁済は原則として停止することになります。この区分を誤ると、債権者間の公平性を害し、手続きの円滑な進行に支障をきたす可能性もあります。
・従業員の労働条件
給与の支払いは継続する必要がありますが、賞与の支給や昇給については、再建計画との整合性を考慮して判断すべきです。
経営者として最も重要なのは、手続きを担当する弁護士や司法書士との密接な連携です。日々の事業運営で判断に迷う事項については、必ず専門家に相談し、法的なリスクを回避しながら事業を継続することが求められます。
まとめ
法人の債務整理には、事業を継続する「再建型」と、事業を清算する「清算型」があり、それぞれに複数の選択肢が存在します。どの道を選ぶかは、会社の状況、事業の将来性、そして何よりも「あなたがどうしたいか」によって変わってくるものです。
そして、多くの経営者が最も恐れるのが「個人保証」の問題でしょう。会社の債務を個人で保証している場合、会社が債務整理を行っても、その保証債務が自動的に消滅するわけではありません。しかし、「経営者保証に関するガイドライン」の活用や、個人としての債務整理を併せて検討することで、生活再建への道筋を見つけることは可能です。
法人の債務整理は、経営者にとって極めて複雑で重大な決断を伴うものです。しかし、それは「終わり」ではなく、「新たなスタート」を切るための重要な戦略に他なりません。
大阪にある川端総合法律事務所は、法人や中小企業、個人事業主の破産について経験と実績のある事務所です。専門性が必要なこの案件について、全国から24時間、電話やメールでのご相談を無料で受付しています。まずはお早めにご相談いただきたいと思います。