取引先の会社が倒産?事前にできる対策を解説

取引先からの連絡が途絶えてしまい、インターネットで会社名を検索してみると「倒産」の文字が…。そのようなことも、あるかもしれません。取引先が倒産すると、大きな衝撃を受けるだけでなく、売掛債権や今後の取引を含め、あなたの会社にも影響が出ることが予想されます。

この記事では、取引先の会社が倒産した場合に取るべき対応と、事前にできる対策について解説します。冷静な判断と迅速な対応こそ、会社の損失を最小限に食い止める鍵となります。

取引先倒産時に最初にやるべき3つの対応

取引先の倒産を知った時、きっと大きな不安に襲われることでしょう。しかし、感情的にならず、段階的に情報を整理して適切な対応を取れば、債権回収ができる可能性もあります。まずは、倒産を知った直後にやるべき3つの重要な対応から見ていきましょう。

1.倒産の事実・手続き種類の確認|破産・民事再生・特別清算の違い

まず最優先で行うのは、倒産の事実確認と手続きの種類を正確に把握することです。「倒産」は一般的な表現ですが、法的には複数の手続きに分かれます。それぞれ、債権者への影響も大きく変わるため、正確に確認することが欠かせません。

破産手続

  • 手続きの目的:会社の清算(消滅)
  • 会社の存続:なし(完全に消滅)
  • 債権回収の見込み:数%程度と極めて低い
  • 債権者としての対応:破産管財人を通じて交渉
  • 確認方法:裁判所への申立書、官報公告、信用調査会社、業界紙などから確認できます。

民事再生手続き

  • 手続きの目的:会社の再建
  • 会社の存続:あり(事業継続)
  • 債権回収の見込み:10~30%程度と期待値は低いが可能性あり
  • 債権者としての対応:再生計画に基づく弁済、新規取引は慎重に判断
  • 確認方法:裁判所への申立書、官報公告、信用調査会社、業界紙などから確認できます。

特別清算

  • 手続きの目的:会社の清算(消滅)
  • 会社の存続:なし(解散後清算)
  • 債権回収の見込み:協定に基づき減額・分割弁済の可能性あり
  • 債権者としての対応:清算人との協定交渉
  • 確認方法:裁判所への申立書、官報公告、信用調査会社、業界紙などから確認できます。

2.債権・債務の状況整理|売掛金・契約書類の再確認

倒産手続きの種類が分かったら、次に自社の債権債務の状況を正確に把握しましょう。後の債権届出や回収戦略の基礎となる、重要なプロセスです。

まず、売掛債権の詳細を洗い出しましょう。請求書、入金予定表、売上台帳などから、未回収の売掛金の金額、発生時期、支払期日を正確に特定してください。ポイントは、単純な売掛金だけでなく、手形債権、電子記録債権、前払金、保証金なども含めて総合的に整理することです。特に、工事代金や業務委託料などで分割請求している場合は、既に履行済みの部分と未履行部分を明確に区分しておきましょう。

契約書類の再確認も欠かせません。売買契約書、請負契約書、業務委託契約書などから、所有権留保条項、相殺条項、期限の利益喪失条項などの特約事項がないかを確認しましょう。所有権留保条項があれば、納入した商品の所有権がまだ自社にある可能性もあります。これは「別除権」として、破産手続きに関係なく、他の債権者より優先して回収できる特別な権利となります。

さらに、取引先に対する債務についても整理しておくべきです。買掛金、借入金、預り金などがある場合、これらは相殺の対象となる可能性があります。ただし、倒産手続き開始後の相殺には制限があるため、タイミングが重要です。

継続的に取引がある場合は、在庫の状況も確認しましょう。取引先の倉庫に保管されている商品、加工を委託している商品、支給材料などがある場合、これらの取り扱いについても早急に対応方針を決める必要があります。特に、商品の所有権の所在や、加工賃との相殺の可否などは、専門的な判断が求められるでしょう。

3.取引先・関係先へのヒアリングと情報収集

書面での確認と並行して、関係者からの情報収集も積極的に行いましょう。倒産に至る経緯、資産の状況、他の債権者の動向等は、公開情報だけでは把握しきれない点が多いからです。

取引先の従業員からの情報は特に貴重です。経理担当者、営業担当者、工場長などから、会社の資産状況、在庫の所在、他の取引先との関係などについて聞き取りをしてみましょう。ただし、従業員も混乱している場合が多いため、情報の正確性については複数の情報源で確認するのがよいでしょう。また、従業員との会話は後日問題となる場合もあるため、できる限り記録を残しておくことをおすすめします。

同業他社や共通の取引先からの情報収集も有効な手段です。倒産に至る前段階での取引先の様子、支払い遅延の状況、他の債権者の対応方針などを把握することで、自社の対応戦略を検討する材料になるはずです。業界団体がある場合は、そこでの情報交換も活用してみましょう。

金融機関との情報交換も重要と言えます。取引先のメインバンクや主要な貸付先からは、手続きの見通し、資産の処分方針、スケジュールなどについて有益な情報が得られるかもしれません。金融機関は守秘義務があるため、直接的な情報開示は期待できませんが、間接的に状況を把握することは可能ですから、アプローチしてみる価値はあります。

これらの情報収集を通じて、債権回収の現実的な見込みを評価し、今後の対応方針を決定していきましょう。回収可能性が低い場合でも、債権届出を適切に行うことで、わずかでも配当を受け取れる可能性が残ります。また、類似の状況に直面している他の債権者と情報を共有し、連携して対応することで、より良い結果に繋がるケースもあります。

債権回収で絶対に避けるべき!NG行動と法的リスク

取引先からの支払いが滞り始めると、焦る気持ちで無理な回収に走ってしまいがちです。しかし、適切な手順を踏まない債権回収は、思わぬ法的トラブルに発展し、経営者ご自身が責任を問われることにもなりかねません。

債権回収には、法律で禁止されている行為や避けるべき行動があります。たとえ善意からでも、法的に問題となるケースは少なくありません。特に相手が破産や民事再生手続きに入った場合は、通常とは異なる厳格なルールが適用されるため、細心の注意が必要です。

1.相殺禁止期間中の無断回収行為

債権者として当然の権利を行使しているつもりでも、タイミングや方法を間違えば、刑事罰や損害賠償責任を負う可能性もあるでしょう。また、強引な回収行為は相手方との関係を悪化させ、結果的に債権回収が困難になることもあります。

破産手続きや民事再生手続きが開始されると、原則として債権者と債務者間の相殺が禁止される期間が設けられます。これは債権者間の公平性を保つためです。この期間に無断で相殺を行うと、相殺無効、回収額の返還請求、損害賠償請求のようなリスクがあります。

2.手続き開始後の個別での回収行為

破産手続きや民事再生手続きが開始された後は、「個別権利行使の禁止」が適用されます。これは、個別の債権者が独自に回収行為を行うことを法律で禁止するルールです。専門家が債務者の財産を管理し、債権者全体で公平に配当を行うためです。直接の支払い請求、債権譲渡通知、差押え、銀行口座の凍結要求などがこれに該当します。該当する行為があった場合、回収額の破産財団への返還、刑事罰(破産法違反で3年以下の懲役または300万円以下の罰金)、損害賠償責任が発生するリスクがあります。

3. 回収交渉での脅迫的表現や違法行為

債権回収の際、感情的になって「会社を潰してやる」「家族に迷惑をかける」といった脅迫的な表現を使ったり、債務者の自宅や職場に押しかけたりする行為は法律で厳しく禁じられています。恐喝罪・脅迫罪、不退去罪等による刑事罰、精神的苦痛に対する慰謝料、営業妨害による逸失利益に該当するケースや、名誉毀損による損害賠償責任、債権自体の無効化する可能性があります。

取引先倒産の予兆と事前にできる対策

多くの経営者が「まさかあの会社が倒産するとは」と驚かれますが、倒産前には何らかの兆候が見られるものです。日常の取引で見落としがちな変化を敏感に察知し、対応することで、売掛金が回収不能に陥るリスクを最小限に抑えることができます。

倒産リスクの兆候|支払遅延・財務悪化など

取引先の倒産リスクを察知する最も重要な指標は、支払いパターンの変化にあります。例えば、これまで月末締め翌月末払いで確実に入金されていた企業が、突然「来月の15日に支払います」と言い始めたときは要注意です。単発的な遅延であれば一時的な資金繰りの問題かもしれませんが、遅延期間が徐々に長くなる、または遅延が常態化している場合は、深刻な財務状況の悪化を示している可能性が高いでしょう。

また、以前は経理担当者から何の連絡もなく振り込まれていたのに、支払い前に「今月は少し遅れます」といった連絡が頻繁に入るようになった場合も危険信号と捉えられます。特に、支払い遅延の理由が「大口取引先からの入金が遅れている」「銀行の手続きに時間がかかっている」など、外部要因を理由にする回数が増えている場合は、慢性的な資金不足に陥っているかもしれません。

財務面での兆候としては、決算書の内容に大きな変化が見られることも重要な指標です。売上高の急激な減少、利益率の悪化、借入金の急増、現金及び預金残高の大幅な減少などが複数同時に起こっている場合は、経営状況が相当厳しい状態にあると判断できます。また、監査法人や会計事務所の変更が頻繁に行われている場合も、財務処理に問題が生じている可能性を示唆していると考えられます。

取引先との関係を維持しつつ、自社の経営を守る、そのバランスの取れた対策が重要です。感情的な判断ではなく、客観的なデータと明確な基準に基づいた判断が求められます。

取引先の信用調査のやり方

信用調査を効果的に行うためには、複数の情報源を組み合わせて総合的に判断することが重要です。まず基本は、商業登記簿謄本による法人の基本情報確認です。代表者の変更履歴、本店所在地の移転回数、資本金の変動などを時系列で追うことで、経営の安定性を推測できます。特に短期間での代表者交代や本店移転の繰り返しは、経営不安定の兆候として注意が必要です。

帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社のデータベースを活用することも有効です。これらの機関では、企業の財務状況、支払実績、業界内での評判などを包括的に調査した信用情報を提供しています。月額数万円程度の費用はかかりますが、大口取引先については定期的にモニタリングすることで、リスクの早期発見につながるでしょう。

より身近な調査方法として、同業他社や共通の取引先との情報交換も重要です。業界団体での懇親会や商工会議所のネットワークを活用し、他社での支払状況や取引条件の変更有無などを情報収集することで、公表されていない実態を把握できる場合があります。ただし、根拠のない噂話と事実を区別し、複数の情報源から得た情報を総合的に判断することが大切です。

危険信号を察知した時の取引条件見直し方法

取引先に危険信号を察知した場合、関係悪化を避けながらも自社のリスクを軽減する取引条件の見直しが必要になります。最も効果的なアプローチは、段階的に条件を変更することです。いきなり前払いや現金取引への変更を求めると、取引先との関係に深刻な影響を与える可能性があるため、まずは支払い期間の短縮から始めることが賢明でしょう。

例えば、現在の月末締め翌月末払いを月末締め翌月15日払いに変更し、その後の状況を見ながらさらなる短縮を検討するという段階的なアプローチには実効性があります。変更理由については「社内の資金繰り管理強化のため」「決算期の関係で入金タイミングを統一したい」といった、取引先を責めない理由を用意することが重要です。

信用限度額の設定や見直しも重要な対策の一つです。一社当たりの売掛金残高に上限を設け、それを超える取引については前払いや保証金の預託を求める制度を導入しましょう。この際、「リスク管理の観点から全取引先に対して統一的に実施している」ことを強調し、特定の取引先を狙い撃ちにしている印象を与えないよう配慮が必要です。

取引条件の変更が困難な場合は、売掛債権保険への加入や、ファクタリングの活用も検討に値します。これらの手法により、取引先との関係を損なうことなく、売掛金回収リスクを第三者に移転することが可能になります。特に大口取引先については、保険料やファクタリング手数料を考慮しても、倒産リスクから自社を守るメリットの方が大きい場合があります。

取引先の経営悪化や倒産で売掛債権が回収できないとなると、自社の資金繰りに深刻な影響が出ます。一度回収不能になってしまえば手遅れになることも多いため、事前の備えが何より重要でしょう。

まとめ

取引先の倒産によって、売掛債権が回収できなくなる不安は、経営者として当然抱く感情でしょう。しかし、適切な対処を行うことで、損失を最小限に抑えることは十分可能です。

取引先の経営状況に不安を感じた時点で、まずは債権の現状を正確に把握することから始めましょう。売掛金の金額や支払期日、担保の有無などを整理し、可能であれば早期の回収を図ることが大切です。また、取引先との関係性を考慮しながら、支払い条件の見直しや分割払いの相談なども有効な選択肢です。

万が一倒産手続きが開始された場合でも、債権者として適切な手続きを踏むことで、配当を受けられる可能性があります。破産管財人への債権届出や債権者集会への参加など、法的な手続きを正確に行うことが重要です。ただし、倒産処理や債権回収の手続きは専門的な知識を要する分野です。特に法的手続きが絡む場合、個人の判断だけでは適切な対応が難しいケースも少なくありません。

そこで、弁護士や司法書士といった専門家への相談をぜひ検討してみてください。専門家は状況に応じた最適な対処法を見つけ、あなたの会社の資金繰りと経営の安定化をサポートしてくれるでしょう。

専門家への相談は、単に法的手続きのサポートを受けるだけでなく、今後の取引先管理や与信管理の改善についてもアドバイスを得られる貴重な機会となります。

大阪にある川端総合法律事務所は、中小企業や個人事業主の破産を専門とする事務所です。取引先が倒産してしまった場合だけでなく、資金繰りに困っている事業者の方からもご相談いただいています。全国からメールや電話にて、ご相談を無料で受付しておりますので、まずはお早めにご相談ください。

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